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第1部 三章【護りのミサト!】その2 第二話 たった千点差のために

Author: 彼方
last update Last Updated: 2025-11-13 18:30:00

45.

第二話 たった千点差のために

 ユキは家に帰ってゆっくり休むと、今回の旅の記録を物語形式で書くことにした。

 その物語の主人公はもちろん井川ミサト。ユキが信じる最強雀士はミサトなのである。いつかきっとそれは皆が認める事実となるはずだと確信している。自分がミサトに習ったことを記録していけばその高く洗練された麻雀に皆が驚くに違いない。そう思って筆を取った。

(たしか、最初に教えてくれたのは…… 守らせるってことだったっけな)

 ユキはノートパソコンを開くと一気に打ち込み始めた。

カタカタカタカタ

パン

カタカタカタカタカタカタ

【ミサトの教え1】

☆守らせることこそが最大の守り

 守備力を高く持ちたいなら威嚇用の一打を常に発想として用意しておかなければなりません。

 重要な場面で一打、威嚇射撃をする。もちろん、自分目線からは安全性の高いものをそれ用に用意しているだけであり本当に危険であってはならない。

 その一打があることで攻撃していた側が防御に変更してくれることがある。それこそが最大の守り。

 相手の顔色を変える一打を考えること、攻撃をやめさせればこちらは攻め放題なわけだから。

 守備とはすなわち手順。手順よく相手をコントロールし、ノーリスクな戦場で両手を広げて戦いなさい。

────

(うん、こんな感じ! これを物語に組み込んで旅する女2人の麻雀小説にしよう。なんか、恥ずかしいけど。でも、麻雀を好きな人たちに読んでもらえたらいいな)

 この日からユキの不定期連載が始まった。

◆◇◆◇

 ミサトとユキはその後は予定通り車で適当な旅をした。雀荘を見つけては入って稼いで。それも武者修行のつもりだった。しかし、今回の店『三元』はちっとも流行ってなくてミサトとユキの同卓をして店の人が入り初めて卓が立つくらいだった。

(ヒマな店ね~)と思うミサト。

 だが、ユキは久しぶりのミサトと同卓が嬉しかった。

(絶対トップになりたい! 成長した私をミサトに見てもらうんだ!)と意気込むユキ。

「ポン」

「ポン」

 親の店長にダブ東のポンと発のポンが入る。ダブ東を鳴かせたのはミサトだ。なぜならば……

南家

ミサト手牌

六六七①①①②③55667 ドラ4

(戦闘準備は万端! ここで字牌とか絞ってられないでしょ。この局が私の挑戦……!)

 親の仕掛けを全く無視してドカドカと危険牌を放るミサトに鳴いている親の方がビクビクする。

(この子美人だなーとか、くだらないこと思ってたの撤回するわ。怖い……! 親のおれのこの仕掛けを見ても一歩も退く事なく攻めてくる……彼女は現状トップ目なのに、この局、間違いなく刺し違える覚悟だ……!)

 そう思っていたら店長は選択を迫られる牌を引かされた。

店長手牌

赤伍伍伍七234(発発発)(東東東)4ツモ

(ウッ! ドラツモ…… マンズ上の方がいい待ちな場面だけど…でも、この4索はもう井川プロに当たりかもしれない……! 井川プロは四萬を捨てているしテンパイだとしても七萬が当たりの可能性は少しばかり少ないが…どうする…)

打七

(これは、違うんだ。そう、18000点にするために選んだ選択であって決して日和ったわけじゃなくて……)

 自分に言い訳でもしないと精神が降参してしまいそうだった。そのくらい、店長は追い詰められていた。しかし、そこに残酷な一打がミサトから放たれる。

「リーチです」

 美しい動きでミサトが牌を横向きに置く。

ストン……

打六

(まだテンパイしてなかったのか! しかも六萬切りリーチ! 待ちをそのままにしていたらここで12000点を取ることが出来たのに…!)

 親はミサトの捨て身とも思えるアタックに完全にのまれていた。高め18000のテンパイをしているとしても気分は既に敗者なのである。そして……

ツモ7

(うおおおおおお…最悪オブ最悪。カスオブカス。これだけはムリ! これの危険度がわからないおれじゃない)

打3(現物)

 親死亡。とは言え3索がもう1枚打たれれば2索のノーチャンス確認が取れるので2索を外して456789引きで再度テンパイになれるが、だがワンチャンス程度で押し返すことは出来ない。そんなアンバランスな押しをするくらいなら7索を勝負しておけということになるから。

(親が死んだな。なまじ、持ち点がそこそこあるから……。この局諦めてもトップを目指せるもんね。まだ東ラスだし。お利口さんなら当然の選択。でも、あの表情から察するに、やりようによってはアガリもあったんじゃないの? 眉が下がってるわよ。わかりやすい人……ふふ)とユキは感じ取った。

(さて、もうこの局は私もダメだ。赤引かされちゃあね……こんな赤5索は切れない。安全ルートでやり過ごすしかないか。北家だけまだ生きてそうね)

 ミサトのツモは残り2回

ミサト

ツモ5

(惜しい!)

 しかしそこでユキの眼光がギラリと光る。

(4枚目の字牌の西を捨ててやり過ごすつもりだったけど、やめた! ここはコレだ)

ユキの選択

打赤5

「チー!」

(よし!)

(ちょっとオ。ユキ、なんてぬるい打牌してんのよぉ。おかげで1人テンパイじゃなくなっちゃったじゃないのよ。ほかに安牌なかったわけ?)

 ミサト最後のツモ

ツモ中

(だめかー)

 流局――

 結局、ミサトと北家が2人テンパイ。ユキと親は1500失点となった。

 そして、牌を流すその時にミサトは目撃する! ユキの手牌の西を。

「あんた、鳴かれない安牌あんのに……!?」

「あぅ、見えた? ミサトの教えはラス回避だし、教義に反すると思ったけど…… でもミサトとの点差をちょっとだけでも少なくしておきたくて」

 たしかにミサトの1人テンパイなら1000の支払いだが点差は4000点差になる。それに比べて下家に鳴かせて2人テンパイにできれば1500失点となるが点差は3000点差しか開かない。その分下位に転落しやすくはなるが。

「たった千点差のためにわざわざってこと……? 勝手に成長して……。強くなってきたわね、ユキ!」

 この千点差が功を奏してユキはミサトをオーラスで200点差捲るのであった。

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